ラファエロ・サンツィオの「一角獣を抱く貴婦人」
絵画は多くの物語を秘めている。
ラファエロの「一角獣を抱く貴婦人」もまさに、そうした1枚だ。
今、上野の東京都美術館で開催中の「ボルゲーゼ美術館展」
を見に行った。
東京都美術館は、上野公園の奥まったところにあり
出かけて行くにはちょっと気力がいる。
それでも「ボルゲーゼ美術館展」は
行くだけの価値があった。
会場を入ってすぐのところに、美術館の建物の大きな
写真が掛かっていて、その成り立ちが語られている。
ローマ教皇パウルス5世の甥、シピオーネ・ボルゲーゼ
枢機卿がヴァチカンの権威を背景に収集したコレクション
といってもよい。ルネサンス・バロック絵画の傑作が多い。
ラファエロの「一角獣を抱く貴婦人」は、18世紀から
19世紀にかけて加筆され、全く違った絵「聖カタリナ」
として存在していたという。
そのモノクロ写真も展示されているが、肩は覆われ、
背景は隠され、一角獣は聖女にまつわる車輪に
取り替えられていた。
修復によって姿を取り戻したのは、1930年代に
なってからだ。
ラファエロらしい端正な面差しもさることながら、
衣装とジュエリーの印象も強い。
「ファッションから名画を読む」(深井晃子・著/PHP新書)
によると、この時代、服は袖と身頃を紐で留め付け、
その間から高価な白いリネンの下着を覗かせていた。
この絵にも、その特徴がよく表れている。
この絵を眺めていて、ふと浮かんだ小説があった。
塩野七生さんの書いた「メディチ家殺人事件」(朝日新聞社)
だ。その中に出てきた女性がフィレンツェの宝石職人に
オーダーして作らせた首飾り。以前、ローマで見た
ラファエロの絵の首飾りを再現してほしい…
その描写は、まさにこの絵の首飾りそのものだった。
37歳という若さで亡くなった早熟な天才
ラファエロ・サンティオは、高貴な人々からも愛された
眉目秀麗な青年だったと言う。
背景となる歴史、画家の人生、そしてさらにその絵が
経てきた時間と、1枚の絵から広がる物語は果てしない。
絵そのものの美しさももちろんだが、その「物語」が
いつも私を引きつけてやまない。
「ボルゲーゼ美術館展」が開催されている東京都美術館。
上野公園 の奥まったとところにあるレンガ造りの建物。
この展示終了後、改修に入り、休館する。
ローマのスペイン広場の階段を上がると広大な
公園が広がる。そこ に佇む,ボルゲーゼ美術館。
17世紀始め,古代ローマの荘館 を手本に
コレクションを収蔵する目的で建てられた。
塩野七生・著「メディチ家殺人事件」(朝日新聞社)は
歴史上の事実を元にした小説。トスカーナ大公コジモ一世
の青年期に起こった事件をモチーフに、当時のフィレンツェの
生活が、生き生きと描かれている。
ボルゲーゼ美術館展
場所 東京都美術館(上野)
http://www.borghese2010.jp/index.html
会期 1月16日(土)〜4月4日(日)
時間 午前9時から午後5時まで
休館日 毎週月曜日
アシェット婦人画報社
「モダンリビング」編集長 下田結花さん
旧婦人画報社(1999年アシェット・フィリ
パッキ・ジャパンと合併、現アシェット
婦人画報社)に入社後、書籍編集部、
別冊編集部、女性誌の編集部を経て
2003年から「モダンリビング」の
編集長に就任。
モダンリビングのブログ「ML日記」にて掲載中。
下田編集長の「編集長日記」
http://mdnlvng.exblog.jp/
「モダンリビング」は1951年に創刊。
建築としての家づくりにとどまらず、
インテリアにも重点をおき、毎号
「幸せを実感できる暮らしと空間」
を提案するビジュアル建築誌です。
http://www.hfm.co.jp/product/modernliving